「見ているはず」——その思い込みが、重要な情報を見落とさせる。
ページに情報を載せても、ユーザーが見ているとは限らない。バナーブラインドネス、スキャン読み、視覚的階層の誤り——さまざまな理由で、情報は無視される。
アイトラッキングは実際に何を見ているかを可視化する。クリックやスクロールではわからない「見ているけどクリックしない」「見ていない」を発見する。
1. 手法の定義
専用の機器を使ってユーザーの視線の動き(注視点、視線経路、滞留時間)を計測し、視覚的注意のパターンを分析する調査手法。
マウスの動きと視線は必ずしも一致しない。アイトラッキングは「本当に見ているもの」を客観的に測定する。
2. いつ使うか
適している場面
- 視覚的階層の検証: 重要な情報が最初に見られるか
- 広告・バナーの効果測定: 気づかれているか
- ナビゲーションの評価: 目的の要素を探せているか
- 学術研究: 厳密な視線データが必要
向いていない場面
- 低コストで実施したい → ヒートマップ(マウス追跡)で代用
- リモートで実施したい → 機器が必要なため対面が基本
- 大量のサンプルが必要 → コストがかかる
3. 設計判断の核
「見ている」と「理解している」は別。
視線がそこに向いていても、情報を処理しているとは限らない。目は向いているが頭に入っていない——アイトラッキングの限界を知っておく必要がある。
よくある誤解 「アイトラッキングがあればマウス追跡は不要」
実際 アイトラッキングは精度が高いがコストも高い。初期の仮説把握や低コスト検証ではマウス追跡のヒートマップで十分なことも多い。アイトラッキングは厳密なデータが必要な場合に使う。
4. 調査タイプ
| 軸 | 内容 |
|---|---|
| データ | 定量(視線座標、滞留時間) |
| 対象 | 行動(視覚的注意) |
| サンプル | 15〜30人(高密度な視線データを個別に取得するため、大規模サンプルより精度重視) |
| 実施フェーズ | Design / Deliver(UIの評価、効果測定) |
主要な指標
| 指標 | 意味 |
|---|---|
| 注視点(Fixation) | 視線が一定時間とどまった点 |
| 注視時間 | 特定エリアを見ていた時間 |
| 注視回数 | 特定エリアを見た回数 |
| 最初の注視までの時間 | 要素に気づくまでの時間 |
| 視線経路(Scanpath) | 視線の移動パターン |
5. 実施プロセス
1. 機器の準備
アイトラッカーの種類
- 据え置き型: モニター下部に設置、精度が高い
- ウェアラブル型: メガネ型、実環境での測定が可能
- Webカメラベース: 低コストだが精度は劣る
2. キャリブレーション
- 参加者ごとに視線の校正を行う
- 画面上の点を順に見てもらう
- 精度を確認
3. テスト実施
- タスクを与える or 自由閲覧
- 視線データを記録
- 必要に応じて思考発話法を併用
4. データ分析
可視化
- ヒートマップ: 注視の分布
- ゲイズプロット: 注視点を順に表示
- AOI(Area of Interest)分析: 特定エリアの注視データ
定量分析
- AOIごとの注視時間・回数を比較
- 条件間の統計比較
5. インサイト抽出
- 見られていない重要要素の発見
- 視線の流れと意図したフローの比較
- 改善案の検討
6. 実務チェックリスト
最低ライン(Must - これがないと失敗)
理想ライン(Better - プロの品質)
7. 関連リンク
関連するUXリサーチ手法
関連するUX心理
- バナーブラインドネス
- Fパターン
- 視覚的階層
関連する用語
まとめ
アイトラッキングはユーザーの視線を専用機器で計測し、「実際に何を見ているか」を可視化する手法である。クリックやスクロールではわからない「見ているけどクリックしない」「見ていない」を発見できる。ただし「見ている=理解している」ではない点に注意。コストが高いため、多くの場合はマウス追跡(ヒートマップ)で代用し、厳密なデータが必要な場合にアイトラッキングを使う。