#541
ユーザー理解・リサーチ
#541あついきじゅつ
厚い記述
別名・表記:Thick Descriptionシック・ディスクリプション厚み記述
UIXHERO Definition
UIXHEROでは、厚い記述を「行動そのものだけでなく、その行動が当事者にとって何を意味するかまで含めて書き記す記述の仕方」と定義する。
概要
クリフォード・ギアーツは、哲学者ギルバート・ライルの例を引きながら、記述には厚みの差があると論じた。まぶたが一瞬閉じるという同じ動きでも、それが単なる痙攣なのか、合図のウインクなのか、ウインクの物真似なのかで意味はまったく異なる。動きだけを書いた記録(薄い記述)では、この違いが失われる。
厚い記述は、行動・その場の文脈・当事者にとっての意味を一体として書き残すことで、後から読む者が解釈できる状態を保つ。
UXでの活用
- 観察記録の質: 「フォームを3回見返した」だけでは分析できない。「入力した金額が正しいか自信がなく、上の表と見比べていた」まで書けば、設計課題が見える。
- チームでの共有: 調査に同席していないメンバーが読んでも、結論だけでなく判断の根拠をたどれる。
- 分析の材料: アフィニティダイアグラムで扱う付箋は、厚みのある記述であるほどグループ化の精度が上がる。
誤用・混乱
- 事実と解釈を混ぜない: 「困っていた」は解釈である。「3秒間画面を見たまま操作せず、その後戻るボタンを押した」が観察された事実にあたる。両方を書き、区別できるようにする。
- 長さ=厚みではない: 主観的な感想を並べても厚い記述にはならない。
- 一般化の材料ではない: 厚い記述は特定の場面の理解を深めるものであり、そこから母集団の傾向を導くものではない。
💡 使いどころ
観察やフィールド調査の記録を残す時。読み手(後から読むチームメンバー)が、その場にいなくても解釈を追えるようにしたい時。
⚠️ 注意点・誤用
厚い記述は「長く書く」ことではない。分量ではなく、行動・文脈・当事者にとっての意味の3層が揃っているかどうかで判断する。また記述者の解釈が含まれるため、観察した事実と解釈を区別して書く必要がある。
具体例
- 「付箋を貼った」ではなく「他の担当者が見落とさないよう、承認欄の真上に付箋を貼った」と書く
- 操作ログに、その時ユーザーが何を確認しようとしていたかの発言を添える
- 現場で使われている略語を、その場での意味とともに記録する
出典・参考文献:
- The Interpretation of Cultures (Clifford Geertz, 1973)
- The Thinking of Thoughts (Gilbert Ryle) — thick description の語の初出