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AIを「忖度しない検査役」にする方法論 — 手組みの跡は、足りないコンポーネントの地図

AIにUIを作らせるのではなく、AIに「何が作れなかったか」を書かせる方法論です。予備知識ゼロのAIの「無い」が強い証拠になる理由、手組みの跡を次に作るコンポーネントの仕様として読む手順、AIが正直に書ける環境の作り方をまとめます。

2026年8月18日
更新: 2026年8月28日
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by Dengen Yosho(DGYS)

自作の @gunjo/ui(群青/gunjo.jpgunjo.jp を新しいタブで開く を、群青を一度も見たことのない 予備知識ゼロのAI に170画面組ませてきた連載のまとめ第4弾。普通は「AIがUIを作る」なのに、なぜ私は「AIに検査させる」側に立ったのか——その方法論を書きます。

「AIに任せる」の逆パターン

AIとの話で私たちがよく聞くのは「AIにコンポーネントを生成させる」「AIにプロトタイプを組ませる」——AIに手伝ってもらう方向の話です。

私は逆をやりました。「予備知識ゼロのAIに、群青のドキュメントとnpmパッケージだけを渡して、実業種の画面を組ませる」を170回繰り返してきました。目的はAIにUIを作らせることではなく、AIが「何ができなかったか」を測ることでした。

これは「AIにUIを作らせる」でも「AIがUIを作れるか試す」でもありません。AIを「忖度しない検査役」として使う、という第三の方法論です。

人間の「気がする」は、思ったより弱い

デザインシステム設計者として、こういう言葉に何度も遭遇します。

  • 「このコンポーネント、なんとなく足りない気がする」
  • 「使う人は多分こう使いたいはず」
  • 「ここは拡張しておいた方がいい気がする」

全部、大切な直感です。でも直感の中身をほぐしてみると、たいていこう混じっています。

  • 過去に別のライブラリで見た UI(無意識の借用)
  • 昔、使う人に言われた 要望の記憶
  • 自分が使いたいから 欲しい機能
  • 未来こう使われるはず の予測(希望的観測)

これらは全部正当ですが、今の使う人が本当に詰まっているかどうかは、直感からは読めません。「気がする」で作ったコンポーネントは、5つ目の画面で誰も使わない、をよく生みます。

予備知識ゼロのAIの「無い」は、なぜ強いのか

同じ「無い」を、予備知識ゼロのAIに書いてもらうと、意味が変わります。

予備知識ゼロのAIにとって、群青は「公開docsとnpmパッケージの中身」だけが世界のすべてです。過去の経験も、昔の要望の記憶も、「うちの流儀」もない。このAIが「このコンポーネントは無い」と書くとき、それは:

  • 見えるものと見えないものを、機械的に分けた結果
  • 希望的観測で埋められていない
  • 経験による補完がない

だからこそ「本当に無い」の強い証拠になります。予備知識ゼロのAIは「なんとなく足りない気がする」を書きません。書いてあることか、書いていないかを、そのまま報告します。

例えば #171 HR書類ダウンロードのAIはこう書きました。

DocumentRow にあたるコンポーネントが無い。なぜ ListCard を使わないかというと、ListCard.onSelect はカード全体を1つの <button> にするから。でも書類の行には、独立した3つの操作対象(選択チェックボックス/プレビューのタップ面/ダウンロードボタン)が要る。ダウンロードボタンを ListCard のボタンに入れ子にすると、不正なHTMLになり、フォーカス順も壊れる。だから ListCard は構造的にこの行を持てない。

同じ書類の行を2通りで並べた図。左のListCardは行全体が1つのbutton要素で、その中に置いたダウンロードボタンがボタンの入れ子になるため置けない。右のDocumentRowは行がdiv要素で、選択のチェックボックス・プレビューのタップ面・ダウンロードボタンの3つが、それぞれ独立した押す対象として横に並んでいるタップして拡大表示

これは人間が書ける言葉ですが、「なんとなく気がする」からは出てきません。予備知識ゼロのAIは「docsにこう書いてあり、npmパッケージにimportできる名前を全部見て、この行の3つの操作対象を並べる方法が無かった」を、具体的に書いています。

手組みの跡は、足りないコンポーネントの正確な地図

もう1つ大事なことは、AIが「これは組めなかったので手組みしました」と書いてくれた手組みの内容そのものが、次に作るべきコンポーネントの初期仕様になることです。

例えば #90ケアプランでAIは「利用者↔担当ケアマネの関係が組めなかった」と書き、独自のJSXで、アバター2つ+中央にラベルを並べました。この手組みの構造が、そのまま RelationshipRow の実装仕様になっています——from / toPersonCellProps、中央に relationshipLabel

手組みは、使う人が何を欲しかったかの直接の証拠です。

  • 何を隣に置いたか(並び順)
  • 何を色で示したか(色の意味)
  • 何を独立した操作対象にしたか(アクセシビリティ)
  • どの動きを組み立てたか(操作)

これらが次に作るべきコンポーネントの骨格を、そのまま教えてくれます。手組みは、どのコンポーネントが足りないかを示す正確な地図なのです。

地図で切り分ける:「群青の問題」か「AIの理解不足」か

AIの報告を読むときに大事なのは、「これは @gunjo/ui 側の問題か、AIの理解が不足しているだけか」を切り分けることです。

同じ「無い」報告でも、中身が違えば切り分けが変わります

報告の中身切り分け対応
ListCard.onSelect で独立ダウンロードボタンを入れると、ボタンの中にボタンになる」群青の問題作る(DocumentRow
「時間帯を選ぶコンポーネントが無い(TimePicker は正確な時刻用)」対応表の問題対応表を是正
Tabs の使い方が分からない」AIの理解不足docsを明確化
Meter を使ったが、direction="higher-is-better" があるのに気づかなかった」docsの見つけやすさJSDocに用途を追加

この切り分けを 1回のコールドテストだけで決めないのが、群青の運用ルールです。「3つの別々の画面で独立に同じ手組みが出る」までは判断を保留します。1回だけの「無い」は、単なるAIの理解不足かもしれません。3回同じ形が出るなら、それは「本当に無い」の強い証拠です。

AIの「正直さ」は、環境で作る

AIが正直に「無い」を書くには、環境の設計が要ります。迎合を避け、使う人の視点を保つ工夫が必要です。

① 文脈を渡さない:群青のソースは見せない。「公開docsとnpmパッケージだけ」を厳守します。既存の実装を見ると、「うちの流儀」を推測してしまうからです。

② 質問形式で誘導しない:「このコンポーネントは使いましたか?」と聞くと、AIは迎合して「はい」と答えがちです。「あなたが手組みした部分と、その理由を報告してください」と、使う人が現場で書くはずの振り返りを求めます。

③ 別プロセスで隔離する:予備知識ゼロのAIは独立したプロセスで走らせ、メインの文脈を汚さない。同じセッション内で「あの回で作ったコンポーネントは……」という記憶が滲むと、予備知識ゼロでなくなります。

④「組めなかった」を弱点として扱わない:AIが「これは組めなかった」と書くとき、それを失敗ではなく貴重な報告として扱います。組めなかった箇所こそが、群青の次に作る候補だからです。

AIは「頼る道具」より「忖度しない検査役」として最も強い

170画面を回してきて、私は予備知識ゼロのAIの使い方を「作らせる」ではなく「測らせる」に定めました。

  • 作らせる(AIにUIを組ませる)→ AIが善意で手組みして埋めてしまうので、「本当は無いコンポーネント」がどれか見えなくなる
  • 測らせる(AIに「何ができなかったか」を書かせる)→ 足りないコンポーネントの場所が正確に浮かぶ

AIの「本当に見えないものを、見えないと書ける力」は、実は人間には難しい力です。人間は経験や希望的観測で埋めてしまう。AIは「書いてある」か「書いてない」かをそのまま報告できる。だから AIは「頼る道具」より「忖度しない検査役」として最も強い、と私は思っています。

これはUIの話に限らないはずです。API設計の、docsの読みやすさ、CLIの見つけやすさ——「予備知識ゼロのAIに、公開情報だけ渡して、詰まった箇所を報告してもらう」は、多くの分野で機能する方法論のはずです。170画面のコールドテストで見えた、群青の一番普遍的な学びです。

まとめ

  • 人間の「気がする」は、経験・偏見・記憶の混合で弱い
  • 予備知識ゼロのAIの「無い」は、書いてあるか / 書いてないかを機械的に分けた強い証拠
  • 手組みの跡は、次に作るべきコンポーネントの初期仕様
  • 「群青の問題 / 対応表の問題 / AIの理解不足」を 3回確認で切り分ける
  • AIの「正直さ」は環境設計で作る(を渡さない / 質問形式で誘導しない / 別プロセスで隔離 / 「組めなかった」を貴重扱い)
  • AIは「作らせる」より「測らせる」側で最も強い

「予備知識ゼロのAIは、優秀な正直者だった」——170画面かけて、この1行を証明した連載でした。手組みされた跡は、どのコンポーネントが足りないかを示す正確な地図。その地図をたどって、群青はここまで来ました。

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あなたがAIにUIを作らせると、何が起きるか

予備知識ゼロのAIに、実在する業種の業務UIを175枚作らせ続けた記録です。何が組めて、何が組めなかったか。全175回の採点と、生まれた26コンポーネントの年表を載せています。

この連載は、作者がAI(Claude)と協働で制作しています。実験・検証の設計、判断、公開前の事実確認は人間が行い、実作業と下書き執筆はAIが担っています。

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最終更新: 2026年8月28日

この記事を書いた人

Dengen Yosho(DGYS)

Dengen Yosho(DGYS)

UI/UXデザイナー兼デザインエンジニア デザイン歴25年以上 情報設計〜UIデザイン〜React/TypeScriptによる実装までを一気通貫で担当 大手企業のDXプロジェクトや決済アプリ領域で、デザインリードとして改善と構築を経験 現在はフリーランスとして、プロダクトのUI/UX改善とデザインシステム構築を支援 長年の実務の中で感じてきたのは、 「良いUI」はセンスではなく、再現可能な判断の積み重ねであるということ UIXHEROは、 心理学や行動科学の知見を、現場で使える設計言語に翻訳するための場所 関心領域は「ユーザーの行動が変わるUI」 人の認知・注意・意思決定の構造を理解し、 “なぜそのUIが機能するのか”を言語化することを目指している

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