この記事の要点
- AIに仕事を頼むとき、指示も生成も確認も直しも、1つの会話の中でやっていませんか。うまくいかないとプロンプトを直したくなりますが、私たちの経験では、先に効いたのは役を分けることでした
- 私たちは、人・司令AI・生成AI・照合プログラム・文脈ゼロのAIの5つの役で仕事を回しています。13種類の仕事の流れを並べたら、全部この5役でした
- いちばん効いているのは、文脈ゼロのAI、つまり事情を何も知らないAIに検品させる段です。作った側には見えない欠陥が、そこで見つかります。この記事自身を例に、流れと手順をまとめます
1つの会話に、全部やらせていませんか
AIに文章や資料を頼むとき、多くの人が同じやり方になっています。1つの会話を開いて、指示を出し、返ってきたものを読み、「ここを直して」と返し、また読む。うまくいかなければ、最初の指示を書き直す。指示も、生成も、確認も、直しも、全部が同じ会話の中にあります。
このやり方の弱いところは1つです。確認する目が、最初から最後まであなた1人になります。 同じ会話の中でAIに見直させても、AIは自分の書いたものの欠陥を見つけられません。あなたも、自分が出した指示の抜けは見つけにくいものです。だから毎回、最後に全部読み直すことになります。
私たちも最初はそうでした。いまは違います。1つの会話に全部やらせるのをやめて、役を5つに分けています。
登場人物は5つ
私たち(UIXHERO)は、UIとデザインの記事を書き、英語に翻訳し、本を書き、図を作り、AIに画面の試作を作らせています。どれも決まった流れで回していて、その流れが13種類あります。13本を並べてみると、登場人物はどれも同じ5つでした。
| 役 | 実体 | やること |
|---|---|---|
| 人 | 人 | 起案・企画・判断・承認。最初に合格の線を引き、途中で見て方向を直し、最後に出すかを決める |
| 司令AI | AI | 人と議論して依頼書を作り、生成AIと文脈ゼロのAIに投げる。戻ってきた記録を受けて、人と結果を検討する |
| 生成AI | AI | 依頼書、素材、書き方の決まりを受け取って、成果物を作る。下書き、翻訳、図、画面の試作 |
| 照合プログラム | プログラム | 使ってはいけない言葉や記号の一覧と、成果物を突き合わせる。載っていれば止める |
| 文脈ゼロのAI | AI | 決まりも経緯も渡されずに、成果物だけを読む。意味が取れなかった箇所を返す |
役の名前は、この記事の中だけの呼び方です。「合格の線」は、誰が読むのか、何ができたら合格か、の2つを指しています。そのうえで、5つのうち3つは、少し説明が要ります。
司令AIは、1本の依頼を順に回すだけではありません。依頼書には、素材の場所、やってはいけないこと、終わったら成果物と直した記録をどこに保存するかまで書きます。その依頼を、複数の生成AIや文脈ゼロのAIに同時並行で投げることもあります。そして、他のAIは作業を終えるたびに、何を決めてどう直したかを記録にして司令AIに戻します。この記録を、この記事では書き戻しと呼びます。司令AIはその書き戻しを人と一緒に見て、結果を確かめ、次の判断を検討します。人が全部の会話を追わなくて済むのは、書き戻しが1か所に集まるからです。
照合プログラムは、判断をしません。一覧に載っている言葉が本文にあれば止める、それだけです。同じ文章を入れれば毎回同じ答えが返ります。そのかわり、一覧に無い言葉は見つけられません。 ここがAIとの違いで、この違いのために、次に文脈ゼロのAIが要ります。
文脈ゼロのAIは、その仕事の事情を何も知らないAI、という意味です。能力で選んでいるのではありません。生成AIと同じAIを使うこともあります。違うのは渡すものです。書き方の決まりや用語の一覧、企画の説明、これまでの経緯といったものを、生成AIには渡し、文脈ゼロのAIには渡しません。 渡した瞬間に「知っている人」になって、作った側と同じところを見落とすからです。
1本の記事が世に出るまで
流れを、この記事自身で見せます。この記事も、いま説明した5役で作られています。
| 段 | 誰 | この記事で起きたこと |
|---|---|---|
| 1 | 人 | 読者は誰か、主張は何か、読み終えた人が何をできるようになるか、を決めた |
| 2 | 司令AI | 人と議論したうえで、素材の場所、やってはいけないこと、終わったらどこに書き戻すかを書いた依頼書を出した |
| 3 | 生成AI | 依頼書、素材、書き方の決まりを受け取って、記事を書いた |
| 4 | 照合プログラム | 禁止語、記号、会社として使わない言い回しを一覧と突き合わせた。0件になるまで生成AIが直した |
| 5 | 文脈ゼロのAI | 決まりを渡さない3本の新しい会話に読ませ、3段階で判定させた。3本とも最も重い判定だった。指摘を見て、生成AIが直した |
| 6 | 人 | 直した原稿を自分の目で読み、「冒頭が意味不明」「順番がつながらない」と方向を直した。生成AIが直した |
| 7 | 文脈ゼロのAI | 新しい会話を開き直して、もう一度読ませた。記事に入れる図は画像だけを見せた。判定が2巡続けて同じになるまで繰り返した |
| 8 | 司令AI | 生成AIと文脈ゼロのAIからの書き戻しを受け取り、人と結果を確かめて、出すかどうかを一緒に検討した |
| 9 | 人 | 出してよいかを決める。承認されたら公開 |
同じ段の並びを、役ごとのレーンに置き直したのが次の図です。
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人が出てくるのは1・6・9の3か所です。最初に線を引き、途中で見て方向を直し、最後に出すかを決めます。6は方向が定まるまで何度でも繰り返します。8で司令AIと結果を確かめるのも人です。作る作業と検品する作業は、間で全部AIとプログラムに渡しています。
そして、この9段のうちいちばん効いているのが5番目です。
いちばん効いているのは、文脈ゼロのAIの検品
理由は1つで、知っている人には、伝わっていないことが見えないからです。 心理学では知識の呪縛と呼ばれます。いったん知ってしまうと、知らない人の立場から自分の説明を見直せなくなる現象です。生成AIも同じで、依頼書と素材を渡された時点で「知っている側」になります。作った本人に検品させても、人でもAIでも、同じところを見落とします。
実例を2つ出します。
例1 照合プログラムでは0件だった言葉を、文脈ゼロのAIが名指しした
私たちの本の原稿に、「塞げた罠」という言い方がありました。社内では「引っかかりやすい失敗のうち、手を入れて起きないようにできたもの」の意味で、問題なく通じていました。気づいたのは、その原稿を書いていない社内の人間です。「罠って意味不明じゃない? 誰も罠は仕掛けてない。」
書いた側には見えていませんでした。禁止語の一覧にも載っていないので、照合プログラムでは0件です。そしてこの言い方は、本とは別に公開していたまとめ記事に、すでに15回使われていました。外にはもう出ていて、社内では誰も止めていなかった、ということです。
ここが仕組みの問題でした。気づける人が1人しかいないと、その人が読まなかった原稿はそのまま出ます。そこで、その人の目に頼らずに同じことができるよう、文脈ゼロのAIを流れの中に入れました。
やり方は単純です。21章・10万5千字の本の原稿の全文を、履歴も設定も引き継がない9本の会話に、1本ずつ別々に読ませました。渡さなかったのは、書き方の決まり、用語の一覧、企画の説明の3つです。聞くことは1つ、「読んでいて意味が取れなかった箇所、引っかかった言い回しはどこですか」。答え方だけは先に決めておき、指摘ごとに「どこ、なぜ引っかかったか、言い換え案」を書かせ、最後に判定を「そのまま出せる/軽微な手入れが要る/内輪の言葉で書かれている」の3つから選ばせました。
結果は、9本合わせて指摘が334件、判定は9本すべてが、いちばん重い「内輪の言葉で書かれている」でした(2026年8月12日)。そして「塞げた罠」は、9本のうち2本が同じ一文を挙げ、そのうち1本が「何が罠だったのかが一度も書かれていない」と名指ししました。
効いたのは能力ではなく、決まりを知らないという状態のほうです。 同じAIに決まりの一覧を先に渡せば、同じ言葉を素通りします。もう1つ分かったのは、1本の会話だけでは取りこぼすことです。同じ一文を挙げたもう1本は、理由として別のことを書き、言い換え案では「罠」を残していました。拾えるかどうかは会話ごとに変わるので、複数に分けて投げます。
例2 「読めますか」しか聞いていないと、図が要ることは出てこない
読ませて直すまでを1巡と数えて、同じ原稿を3巡かけました。判定が「軽微な手入れが要る」まで来た時点で、本文には画像が1枚もありませんでした。1巡目の334件の指摘のどこにも「ここに図が欲しい」はありません。当たり前でした。文脈ゼロのAIには「読めるか」しか聞いていないからです。 人の読者と同じで、文脈ゼロのAIも、図が無い箇所では頭の中で絵を補い、補えなければ読み飛ばします。そこを「意味が取れなかった」とは報告してくれません。
そこで質問を変えて、別の会話を開き、同じく文脈ゼロのAIに「読んでいて、頭の中に絵を描かないと理解できなかった箇所はどこですか」と聞き直しました。図ができたら、今度はキャプションも本文も渡さずに、画像だけをまた別の会話で見せて「この図は何を説明していますか」と聞きます。答えが、その図で分からせたかった1文と食い違えば不合格です。2026年8月に作った図の1枚は、7版目でようやく通りました。
役を替えたのではなく、聞く質問を変えただけです。 相手は同じ、文脈ゼロのAIのままです。何も知らない相手は、聞かれたことしか答えません。だから、何を聞くかがそのまま、その検品で拾えるものの範囲になります。
但し書き 最初は、指摘そのものより「その指摘は本当か」の確認に時間が要る
検品を渡し始めた最初の数回に共通することを、別の仕事の例で示します。文章ではなく、画面の点検を文脈ゼロのAIに渡したときの話です。1つのサイトをアクセシビリティ規格に照らして点検させたとき、かかった48分のうち13分は、私たちがAIに与えた測り方の条件そのものの誤りを見つけて直す時間でした(2026年8月14日)。たとえば、画面が表示しきる前に測らせていた、といった誤りです。どれも結果が丸ごと嘘になる種類で、しかも全部「問題があると多く報告する」方向でした。
見逃しより、間違った指摘のほうが信用を壊します。あなたが検品をAIに渡すときも、最初の数回は、返ってきた指摘そのものより「その指摘は本当か」を確かめる時間のほうが長くなると思っておいてください。
なぜ、役を分けると効くのか
役を分けているのは、体裁のためではありません。分けるたびに、渡すものが変わるからです。
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司令AIと生成AIを分けると、人が決めた線が依頼書という文書になります。1つの会話の中で「こういう感じで」と言っているうちは、線はどこにも書かれておらず、その会話の中でしか通じません。依頼書に書かれると、生成AIが何を渡され、何を渡されていないかが決まります。もう1つ、他のAIの書き戻しが司令AIに集まるので、人は全部の会話を追わなくても、結果だけを見て判断できます。
生成AIと文脈ゼロのAIを分けると、検品する側を「知らない人」のままにできます。同じ会話で「じゃあ検品して」と頼んでも、その会話は全部を知っています。
照合プログラムと文脈ゼロのAIを分けると、白黒が付くものを先に片づけられます。禁止語のように一覧で決まるものを残したまま読ませると、読む側の注意がそこで使われて、本当に見たかったこと、つまり読んで分かるかどうかが埋もれます。
そして人は、両端と真ん中にいます。最初に線を引き、途中で見て方向を直し、最後に出すかを決める。ここは渡していません。線を後から決めると、何を合格とするかが結果に合わせて動きます。途中で人が見ないと、直しの方向が検品の指摘に引きずられます。最後に人が見ないと、欠陥は無いが読者に届かないものが出ていきます。
あなたの手元では、会話を2つに分けるところから
5役をそのまま真似する必要はありません。司令AIも照合プログラムも、明日すぐには用意できないと思います。それでも、いま1つの会話でやっていることを、会話を開く前の一手間と2つの会話に分けるだけで、5役のうち人・生成AI・文脈ゼロのAIの3つは今日からそろいます。
| やること | 5役のどれか | 中身 |
|---|---|---|
| 会話の前に、合格の線を2行書く | 人 | 「誰が読むのか」「何ができたら合格か」を1行ずつ書く。司令AIの依頼書の代わりになる |
| 作る会話 | 生成AI | その2行と素材を渡して作らせる。直しもこの会話でやる |
| 検品の会話 | 文脈ゼロのAI | 新しい会話を開き、経緯も決まりも渡さずに、成果物と「誰が読むか」の1行だけを貼って読ませる |
合格の線を2行書く
会話を開く前に、2行だけ書きます。誰が読むのか。何ができたら合格か。この2行が、司令AIの依頼書の代わりになります。書かずに始めると、返ってきたものを見てから合格の線を決めることになり、線が結果のほうに寄ります。
作る会話
その2行と素材を渡して作らせます。直しもこの会話でやって構いません。生成AIは知っている側でよいので、渡せるものは渡します。
検品の会話
ここが本体です。新しい会話を開いてください。 自分用に指示を保存してあるAI、社内の資料をあらかじめ読み込ませてある設定、他の人と共有している会話の続きは使いません。過去の会話を覚える機能があるなら切るか、履歴を残さない一時的な会話を使ってください。その設定を自分で切れないなら、契約しているAIの管理者に「社内の資料を読み込ませていない、素の状態の会話を1つ使えるか」を聞いてください。会社の文書を、会社が契約していないAIに貼るのはやめてください。
渡さないものの決め方は1つです。読み手が、その文書を受け取った時点で頭に入っていない情報は渡さない。 社内マニュアルの改訂案なら、これまでの改訂の経緯と、いま揉めている論点。取引先への案内メールなら、社内で回した下書きへのコメントと、料金をそう決めた社内の事情。逆に「これは何のための文書で、誰が読むのか」の1行は、読み手も分かった状態で読むので渡します。
貼る文は、そのまま使えます。
あなたは(読み手の立場)です。この文書を書いた側の事情は何も知りません。それでよい、というのがこの依頼の前提です。ほかの資料は見ないでください。
この文書は(何のための文書で、誰が読むのか)です。
聞きたいことは1つです。読んでいて意味が取れなかった箇所、引っかかった言い回しはどこですか。
指摘ごとに「どこ(引用)、なぜ引っかかったか、言い換え案」の3項目を書いてください。最後に、全体の判定を「そのまま出せる/軽微な手入れが要る/読んだ人がその通りに動けない箇所がある」から1つ選んでください。問題が無ければ「無い」と書いてください。取り繕うために指摘を作らないでください。
判定のいちばん重い選択肢だけは、あなたの仕事でいちばん困る欠陥の名前に置き換えてください。上に入れてある「読んだ人がその通りに動けない箇所がある」は手順書やマニュアル向けです。取引先への案内メールなら「読んだ人が、何をいつまでにすればよいか分からない」、私たちの本の原稿なら「内輪の言葉で書かれている」でした。ここが合っていないと、誰もそれを選ばず、判定が真ん中ばかりになります。
同じものを、最低3本の会話に別々に投げます。 1本では取りこぼすことは、「塞げた罠」で実際に起きています。2本以上が同じ箇所を挙げたものは直し、1本だけのものは引用された箇所を自分で読み直してから決めます。言い換え案がばらばらなら、案は採らずに、共通して引っかかった理由のほうを見て自分で書き直します。
3本の判定が割れたら、いちばん重いものをその巡の判定とします。やめどきは、判定が動かなくなったときです。「そのまま出せる」以外なら、直して新しい3本にもう1巡投げます。同じ判定が2巡続いたら、そこで止めて、出すかどうかを自分で決めます。指摘の数はゼロになりません。
禁止語の一覧があるなら
照合プログラムは、書かなくても代わりがあります。使ってはいけない言葉の一覧がすでにあるなら、検品の会話に投げる前に、成果物の中をその語で検索してください。それが照合です。一覧に載っている語をここで潰しておくと、文脈ゼロのAIの目が、載っていない語のほうに向きます。
私たちがまだできていないこと
5役の流れは13種類の仕事で回っていますが、人が動く番になったときの手順は、まだ1か所にまとまっていません。6番目と9番目で人がどのファイルを開き、何を見て、何が出れば終わりなのかが、流れごとに別の場所に書かれています。人のところで止まるのは作業が大変だからではなく、その場所を思い出すのに時間がかかるからです。役は分けられましたが、その役を毎日回し続けるのは別の仕事でした。
この記事も、5役で作りました
上の9段の表のとおりです。図が要るかどうかも、こちらの判断ではなく、文脈ゼロのAIに「頭の中に絵を描かないと理解できなかった箇所はどこですか」と聞いて決めました。「役ごとに何を受け取るのかが1か所にまとまっていない」と返ってきたので、その1枚だけを作り、キャプションを渡さずに画像だけを見せて、何の図に見えるかを確かめています。
この記事は、UIXHEROがAI(Claude)と協働で制作しています。実験の設計・判断・公開前の事実確認は人間が行い、実作業と下書き執筆はAIが担っています。