この技術でできること
- インタビューのデータを 分析可能な状態 に変換できる
- 「記憶に頼る分析」から エビデンスに基づく分析 に移行できる
- 発話の ニュアンスや非言語情報 も記録として残せる
例 : 記録なしのインタビューは、分析時に「たしかこう言っていた」に頼ることになる。それは分析ではなく記憶の再構成
なぜ難しいか
記録は「全部残す」と「効率的に残す」のバランスが難しい。
完全な逐語録は理想的だが、60分のインタビューを1文字残らず書き起こすと3〜4時間かかる。かといって要約だけでは分析時に原文が必要になった時に戻れない。 目的に応じた記録粒度の設計 が必要。
記録プロセス
全体フロー
「記録方法の選択」→「インタビュー中の記録」→「文字起こし」→「分析用データの整理」。記録は分析のためにある。どう分析するかから逆算して記録方法を決める。
ステップ1: 記録方法を選択する
目的 : 分析方法に合った記録手段を設計する
| 記録方法 | 特徴 | 適した分析 |
|---|---|---|
| 録音 | 発話を正確に残せる | コーディング分析、引用が必要な報告 |
| 録画 | 表情・ジェスチャーも記録 | ユーザビリティテスト、非言語分析 |
| リアルタイムメモ | 要点を即座に記録 | 軽量な分析、素早い報告 |
| AIツール文字起こし | 自動で書き起こし | 時間を節約したい場合 |
推奨 : 録音+リアルタイムメモの併用。録音で正確性を担保し、メモでポイントを把握。
ステップ2: インタビュー中に記録する
目的 : 後の分析に必要な情報をリアルタイムで残す
リアルタイムメモのコツ :
- 全部書こうとしない : キーワードと発話番号だけ書く
- 非言語情報を書く : [笑い] [ためらい] [声が大きくなる] [長い沈黙]
- 自分の気づきは別欄に : 事実と解釈を分ける
メモテンプレート :
【インタビューメモ】
日時: 2026/03/22 14:00
参加者: U003
インタビュアー: [名前]
■ メモ
[0:00] 開始、アイスブレイク
[3:20] カート離脱について
「送料が見えないから不安」← キーフレーズ
[声が大きくなる]
[5:45] 比較行動について
他のアプリと比較してから戻ってくる
[少し迷った表情]
[8:10] ★ 「結局、安心感が足りない」← 核心的な発話
■ 気づき(自分のメモ、事実ではない)
- 送料だけでなく「安心感」という上位概念がありそう
- U001とU002も似たことを言っていた?
ステップ3: 文字起こしを行う
目的 : 録音を分析可能なテキストに変換する
文字起こしの粒度 :
| 粒度 | 内容 | 所要時間 | 適した場面 |
|---|---|---|---|
| 完全逐語録 | 一言一句を再現 | 3〜4時間/60分 | 学術研究、厳密な分析 |
| 整形逐語録 | 意味を変えず読みやすく整形 | 2〜3時間/60分 | 一般的なUXリサーチ ★推奨 |
| 要約記録 | 要点だけをまとめる | 30分〜1時間/60分 | 軽量な分析、即日報告 |
実務では整形逐語録が現実的な選択肢 。完全逐語録は学術研究など厳密性が求められる場面向け。
整形逐語録の例 :
[完全逐語録]
えーと、あの、カートに入れた後にですね、
あの、送料がわかんないんですよ。
で、あの、どうしようかなって思って...
[整形逐語録] ★推奨
カートに入れた後に送料がわからない。
どうしようか迷う。
AIツールの活用 :
- Otter.ai / Whisper / Notta などで自動文字起こし
- 自動生成した文字起こしは 必ず録音と照合 して修正する
- 固有名詞や専門用語は手動で補正する
ステップ4: 分析用データを整理する
目的 : コーディング分析に入れる状態にデータを整形する
やること :
- 話者を明示する(インタビュアー: I、ユーザー: U)
- タイムスタンプを付与する
- 非言語情報を [ ] で注記する
- 個人情報を匿名化する
出力例 :
[03:20] I: カートに入れた後の行動を教えてください。
[03:25] U: えっと、カートに入れた後に送料がわからなくて。
で、他のサイトのほうが安いかもと思って、
比較しに行くんですよね。[少し笑う]
[03:45] I: 比較しに行く。
[03:47] U: はい。で、結局戻ってこないこともある。
[長い沈黙]
なんか...安心感が足りないんです。
→ 次のステップはコーディング分析
よくある失敗
❌ 録音を忘れる / 録音が途切れる
機材のトラブルでデータが失われる。
なぜ失敗するか : 記録設備の事前チェックを怠る。バックアップの準備がない。
対策 :
- 2つのデバイスで同時録音する
- インタビュー開始時に録音状態を確認する
- バッテリーとストレージの残量をチェック
❌ メモに集中しすぎて傾聴ができない
一言一句書こうとして、ユーザーの顔を見なくなる。
なぜ失敗するか : メモと傾聴を両立しようとしている。
対策 :
- 録音で正確性を担保し、メモはキーワードだけにする
- 目線が切れる時間を最小限にする
- 2人体制(インタビュアー+記録者)を検討
実践チェックリスト
最低ライン(Must)
理想ライン(Better)
関連技術
前提となる技術
- 倫理・同意 — 録音・録画の許可
セットで使う技術
- 傾聴技術 — 記録と傾聴の両立
- リモートインタビュー — リモート録画の技法
次に学ぶ技術
- コーディング分析 — 記録データの分析
まとめ
- この技術の本質 : 記録は分析のためにある。どう分析するかから逆算して記録方法を決める
- できるようになること : 「記憶に頼る分析」から「エビデンスに基づく分析」に移行できる
- 次に学ぶべき技術 : コーディング分析(記録データにラベルをつける)