深掘り技術
この技術でできること
- 表面的な回答から本当の理由を引き出せる
- ユーザー自身も気づいていない価値観に辿り着ける
- 問題の根本原因を特定できる
例: 「検索が使いにくい」という回答から、「実は商品名がわからないから画像で探したい」という本質的ニーズを発見できる
なぜ難しいか
深掘りは「なぜ?」を連発することではない。下手な深掘りは尋問になり、ユーザーを黙らせる。
自然に聞こうとすると、人は自分の期待を無意識に質問に混ぜてしまう。「こういう答えが欲しい」という思いが質問に漏れ出し、ユーザーは本音ではなく「期待されている答え」を返す。深掘りには、この無意識を制御する技法がある。
深掘りの進め方
全体フロー
「表面的な回答」→「深掘り質問」→「本質的なインサイト」。目的に応じてラダリング・5 Whys・具体化を使い分ける。
3つの深掘り技法
| 技法 | 目的 | 使う場面 |
|---|---|---|
| ラダリング | 価値観を掘る | 「なぜそれが大事か」を知りたい時 |
| 5 Whys | 原因を掘る | 問題の根本原因を特定したい時 |
| 具体化質問 | 事実を掘る | 曖昧な回答を具体化したい時 |
技法1: ラダリング(Laddering)
目的: ユーザーの「価値観」まで辿り着く
やること: 表面的な属性から、本質的な価値観へ登っていく。属性 → 機能的利点 → 情緒的利点 → 価値観 の順で探る。
具体例:
ユーザー: 「iPhoneを使っています」
インタビュアー: 「iPhoneを選んだ理由は?」
ユーザー: 「ケースの種類が多いから」(属性)
インタビュアー: 「ケースが多いと何が良いんですか?」
ユーザー: 「自分好みの見た目にできる」(機能的利点)
インタビュアー: 「好みの見た目だと、どんな気持ちになりますか?」
ユーザー: 「持っていて気分が上がる」(情緒的利点)
インタビュアー: 「気分が上がると、あなたにとってどんな意味がありますか?」
ユーザー: 「自分らしさを表現できている感じがする」(価値観)
ポイント:
- 「なぜ?」ではなく「〜すると何が良いですか?」「〜だとどんな気持ちに?」
- 情緒的な言葉が出てきたら、価値観に近づいている
技法2: 5 Whys
目的: 問題の「根本原因」を特定する
やること: 現象 → 直接原因 → その原因 → さらにその原因 → 根本原因。「なぜ?」より「その後どうなった?」が答えやすい。
具体例:
ユーザー: 「このアプリ、使わなくなりました」(現象)
インタビュアー: 「使わなくなったきっかけは?」
ユーザー: 「通知が多すぎて」(直接原因)
インタビュアー: 「通知が多いと、どうなりましたか?」
ユーザー: 「全部オフにした」(行動)
インタビュアー: 「オフにした後は?」
ユーザー: 「アプリを開く理由がなくなった」(結果)
インタビュアー: 「通知がなくても開きたいと思うことは?」
ユーザー: 「特にない。通知で思い出してたので」(根本原因:習慣化の失敗)
ポイント:
- 「なぜ?」より「〜した後どうなりましたか?」の方が答えやすい
- 5回がルールではない。根本に辿り着いたら止める
技法3: 具体化質問
目的: 曖昧な回答を「事実」に落とす
やること: 「最後に○○したのはいつ?」「具体的に何をした?」「画面を見せて?」のパターンで、時間・場所・行動の3点セットで具体化する。
具体例:
ユーザー: 「よく使います」(曖昧)
インタビュアー: 「最後に使ったのはいつですか?」
ユーザー: 「えーと...先週かな」(やや具体的)
インタビュアー: 「先週のいつ頃ですか?何をしていた時?」
ユーザー: 「木曜の夜、電車の中で」(具体的)
インタビュアー: 「その時、何を探していましたか?」
ユーザー: 「週末の予定を確認してた」(事実)
ポイント:
- 「よく」「いつも」「たまに」は全部曖昧。必ず具体化する
- 時間・場所・行動の3点セットで聞く
よくある失敗
❌ 尋問モードになる
「なぜですか?」「なぜですか?」「なぜですか?」と連発すると、ユーザーは防御的になる。
なぜ失敗するか: 「なぜ」は相手を責めているように聞こえる。
対策:
- 「なぜ」を「どう」「何」に言い換える
- 「なぜそうしたんですか?」→「その時、どんなことを考えていましたか?」
❌ 深掘りしすぎて迷子になる
興味深い話に引き込まれて、本来聞きたかったことから離れてしまう。
なぜ失敗するか: リサーチクエスチョンを忘れている。
対策:
- 手元にリサーチクエスチョンを置く
- 3階層掘ったら一度立ち止まる
- 「ここまでのお話、とても参考になります。少し話を戻して...」
❌ 答えを待てない
ユーザーが考えている時に、次の質問を被せてしまう。
なぜ失敗するか: 沈黙が怖い。
対策:
- 3〜5秒は必ず待つ
- ユーザーが考えている間は、うなずいて待つ
- 沈黙の技術を参照
実践チェックリスト
最低ライン(Must)
理想ライン(Better)
応用テクニック
ミラーリング
いつ使うか: ユーザーが感情的な言葉を使った時、もう少し話してほしい時
ユーザーの言葉をそのまま繰り返すだけで、深掘りになる。
ユーザー: 「ちょっとストレスを感じて」
インタビュアー: 「ストレスを感じた...」
ユーザー: 「はい、なんか操作が多くて、えーと、毎回同じことを入力するのが...」
崩れるパターン: 何度も繰り返すとオウム返しに聞こえ、ユーザーが不自然さを感じる。1つの話題で1〜2回に留める。
仮説をぶつける
いつ使うか: 深掘りが行き詰まった時、ユーザーが「わからない」と言った時
あえて仮説をぶつけて反応を見る。
インタビュアー: 「もしかして、○○だから使いにくいとか?」
ユーザー: 「いや、それより△△の方が...」
注意: 仮説が当たっているか確認するのではなく、反応を引き出すために使う。
崩れるパターン: 仮説が具体的すぎると誘導になる。「〇〇ですよね?」ではなく「もしかして〇〇とか?」と軽く投げる。
関連技術
前提となる技術
- 質問設計 — 深掘りの前に、最初の質問が重要
セットで使う技術
次に学ぶ技術
- コーディング分析 — 深掘りで得たデータを分析する
まとめ
- この技術の本質: 「なぜ?」の連発ではなく、ラダリング・5 Whys・具体化の使い分け
- できるようになること: 表面的な回答から本質的なインサイトを引き出せる
- 次に学ぶべき技術: 傾聴技術(深掘りのタイミングを見極める)
次に学ぶ技術: 傾聴技術